リアハブベアリング交換その2




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ようやく外れたハブアッシー。
インナー側から見ています。歯車のような部品がABSローターです。





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ハブアッシーが外れたら、ハブキャリアからハブを引き抜かなくてはなりません。
ハブはABSローターおよびインナーベアリングの内側のカラーにはまり込んでいるため、インナー側から、ハブと同じ径のパイプなどをあてがい、たたき出します。
これは途中までたたき出して、先にABSローターを取り外した写真です。
黒い輪がインナーシール、その中の銀色のものがインナーベアリングです。




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抜けたハブ。要は、写真上側にのびたパイプ状の部分が、インナーベアリングにはまり込んでいるので、これの上部をたたいて押し出す訳です。





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ハブが抜けるとあとは比較的楽です。
オイルシールをマイナスドライバ等でこじって取り外します。するとベアリングが取り外せます。


写真は取り外したベアリングとシール類です。


左から
ABSローター
ベアリングスペーサー
アジャスタブルスペーサー
アウターベアリング
オイルシール
インナーベアリング
です。



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ベアリングを外しても、ベアリングの外側のカラーはまだハブキャリアに残ったままです。
これを、マイナスの貫通ドライバやたがねを使ってたたき出します。
本来はベアリングプーラーを使ってする作業ですが、たたき出しでも十分可能です。
ただし、内壁に傷を付けないよう注意してください。傷がついた場合はペーパーで削って修正しましょう。

写真で見える溝がプーラーの爪を引っかけるところなのですが、ここを利用してたたき出す訳です。






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取り出したベアリング。大きな破損はないものの、ローラーが茶色く焼けているのがお分かりいただけるかと思います。




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古いベアリングのカラーをたたき出したら、今度は新しいベアリングのカラーを少しずつたたいていれます。


小川さんがベルトサンダーで古いベアリングのカラーの外側を削ってくださり、即席SSTにしてくださいました。これを新しいベアリングカラーの上にあてがい、たたき入れていく訳です。直にたたくと新品のカラーが痛みますからね。


たたき入れるときは水平にずれないように少しずつたたいていきましょう。見るだけではなく、触ってチェックするとよく分かります。最後まで入ると音が変化しますので分かります。カンカンという音が、カキーンと急に固いものをたたくような音に変わります。
また、万力等で固定してやらないと、力が逃げるので、打ち込みに酷く時間がかかります。




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インナーとアウターのベアリングカラーをたたき入れることができたら、ベアリングにグリスをつめます。
写真ではモリブデングリスを使っていますが、ベアリングにはモリブデンは使わない方が良いそうです。ウレアグリスがお勧めということらしいので、フロントの作業ではウレアを入れました。

片方の手のひらにグリスをたっぷり取り、もう一方の手でその上にベアリングを押し付けるように転がします。するとローラーの隙間からグリスが押し込まれます。もちろんグリスパッカーを使うと楽に出来ます。



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ベアリングにグリスをつめたら、まずはアウターベアリングを入れます。
アウターオイルシールを、ゴムハンマーや木槌などで優しくたたき入れます。このとき、オイルシールの内側にもグリスを塗っておきます。
オイルシールはぱっと見ゴムですが、中には鉄の芯が入っており、固いので、叩き込まないと入りません。ただし、痛めないように注意してください。
上の写真は、それらを入れた後の写真です。






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ここで、正規の方法を先に説明しておきます。
上図は、ベアリングのくみ上げ方の模式図です。


これから書く部分は、パーツの入手、整備手順の上でちょっと難しいところで、一般の整備工場でもなかなかやっているところはないと思います。しかし、これを守れば、ベアリングの寿命がかなり変わってくると思います。


a) アウターベアリングとオイルシールを入れたら、インナー側を上にして、スペーサー、
 アジャスタブルスペーサー、インナーベアリングの順に入れていきます。スペーサーの
 向きに注意して下さい。径が細くなっている方がインナー側に向きます。


b) ここで、今まで入っていたアジャスタブルスペーサーではなく、最大サイズである
 3.47mmのアジャスタブルスペーサーをいれます。
 アジャスタブルスペーサーは、ハブとベアリングの公差のずれを調整するために、複数
 のサイズのものが用意されています。


c) ハブを差し込みます。
 ベアリングとのクリアランスがあまりなく、すぽっとはまらない場合には、ハンマーと
 たがねを使い、優しく叩き込んでいきます。


d) インナーオイルシールはまだ入れずに、ABSローターを上から打ち込みます。


e) 打ち込んだら、ダイアルゲージを使って、ベアリングのクリアランス(エンドフロート)
 を計ります。
 下の図のようにします。


この時点で、ベアリングやスペーサーは、ハブとABSで完全にサンドイッチされているため、全部一体となって動きます。


ここで、エンドフロートが0.20mmあったとします。
正規の範囲は
0.025-0.08mmですから、0.08の方に合わせるとすれば、0.12mm余分であることになります。


先ほど、3.47mmのスペーサーを入れた訳ですから、ここから0.12mmぶんを削れば、エンドフロートが正規範囲内になります。
従って、理論上は3.35mmのスペーサーに置き換えれば、適切なエンドフロートが得られることになります。
しかし、パーツは0.05mm刻みでしか手に入らず、3.37mmか3.32mmしか出ません。
そこで、3.32mmを選べば、エンドフロートは

3.47ー3.32=0.15(スペーサーの差)
0.20ー0.15=0.05(エンドフロートの値)

ということで、適正値になります。


適正なアジャスタブルスペーサーを組み直すために、一度くみ上げたハブアッシーをバラします。
バラしたら、計算で出した適当なアジャスタブルスペーサーを、最大値のスペーサーの代わりにいれ、今度はアウターオイルシールもきちんと叩き入れて、組み込みます。




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ただし、普通はリフトに上げっぱなしでスペーサーがイギリスから来るまでじっと待っている訳にもいきません。
ではスペーサーをどかっと買い込めば良いのかと言うとそう言う訳にもいかないのです。0.05mm刻みで20種類もあり、1枚が送料抜きで10ポンド以上します。
従って、全部そろえると下手をすると3万コースになってしまいます。

レストア途上でクルマを動かさずに放っておいても良いような場合は良いのですが、そうでない場合、ベストは、中古のハブを安く入手して、それをリビルトし、後で組み替えるという手順を取ることでしょう。
どうしても適切なスペーサーが手に入らない場合は、そのまま以前のものを使って組み込むことになりますが、念のためエンドフロートは計っておいてください。エンドフロートが若干多い分にはまだ良いのですが、エンドフロートが皆無だとベアリングを潰してしまうことになってしまいます。




あとは逆順をたどってくみ上げていけば完成です。


ハブナットの締め込みトルクは
300〜336N・mです。これは半端ない力です。60cmくらいの長さのレンチでは、60kg前後の人間が全体重をかけて締め込んでもまだ足りないくらいです。
ナットはゆるみ止め付きなので、再利用は不可能です。必ず新しいものを買ってください。


最後に、トラブル解消にお付き合いいただいた小川さんとSHIOさん、原因究明に色々ご尽力くださったリスターさんに厚くお礼申し上げます。




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