ATのお話(2015.1.19)



各年代のジャガーのATに関する話です。



ジャガーに初めてATが採用されたのは、EタイプやMk-2の頃の話です。
しばらくはボルグワーナーのミッションが使われていました。これは
XJSr-1や初期のXJSも同じです。また、6気筒の車に関しては、Sr-3サルーンが86年までボルグワーナーのミッションを使い続けています。

XJSとV12サルーンは途中でGM製のTH(ターボハイドラマティックの略)400というミッションに置き換えられます。ターボというのはトルクコンバーターのタービンを指しています。
これは言うまでもなくアメ車用の3速ミッションで、強大なトルクに耐えられるため、多くの高級車に使われました。キャデラックは言うまでもなく、ロールスロイス、アストンマーチン、ジャガーにデイムラー、果てはフェラーリまで使っていたのです。
その丈夫さのおかげで、未だにミッションは問題なく使うことができる上、広く使われたためにOHが必要になっても部品が常に安く手に入ります。全くクラシックカー乗りのためにあるようなミッションです。

ボルグワーナーにしろGMにしろ、どうもアメ車用、というと日本人はあまり良いイメージを抱かないようです。しかし、Sr-3の4.2に積まれていたBW66も、GMのTH400も、非常に滑らかなミッションで、トルクバンドの広いエンジンと組み合わされた時には、今の7速だの8速だのというミッションが馬鹿らしく思えるほどシームレスな加速を提供してくれます。燃費の問題を別にすれば、忙しく変速しないほうが高級車然としているのですね。
もともとATが初めて発明されたのはアメリカですし、アメリカは1960年代まで世界の自動車界をリードする存在だったわけですから、悪かろうはずはないのです。

整備の点で言いますと、TH400はちょっと面倒な点があります。
オイルパンにドレンプラグが付いていないのです。
従って、オイル交換の時には下抜きしようと思えばオイルパンを外さないといけないわけですが、これまたご丁寧にも、オイルパンのボルトとミッションマウントブラケットのボルトが共用であるため、エンジンを釣って支えておかなければオイルパンが外せません。
この辺りはなんとも古いV12らしいと言いますか、DIY泣かせなポイントではあります。
アメリカではドレンボルト付きのオイルパンがたくさん売られていて、オイルを余分にためておけるディープパン、冷却フィン付きパン、ドレスアップ用クロームパンなど選び放題です。これは私の車でもそのうち交換するつもりです。
フルードはデキシロンIIが指定ですが、現在ではなかなか手に入らないので、デキシロンIIIで全く問題ありません。しかし、D-IIの方がD-IIIよりも硬いオイルだったため、どうも粘度が低いものとは相性が悪いらしいのです(変速ショックが出ることがある)。そのため、IIIを入れる場合は、できれば鉱物油で、アメリカのメーカーのものを選ぶのが無難なようです。私はACデルコのオイルを使用しています。安いですが好感触で問題も全く出ていません。
国産車用のフルードでは、トヨタや三菱にまだD-IIという表示でデキシロンIIのフルードが販売されているようですので、こだわる方は国産車ディーラーに尋ねてみても良いでしょう。

ちなみに、TH400はバキューム制御で変速しています。エンジンが吸気するときに発生する負圧を利用して変速するのです。ですから、ミッション横に付いたバルブからホースが伸びていて、エンジンのインテークマニフォールドにつながっています。
変速しなくなった場合はバルブやホースの不具合というのが多いので、中身を疑う前にそこをチェックするのが第一ですね。



V12エンジンが6Lになるのと同時に、ミッションが同じくGMの4L80Eという電子制御ミッションに変わります。
これはそもそもTH400の後継機種で、コルベットなどに使われていた700R4という4速ミッションよりもさらにタフなものです。ハマーH1のミッションといえばいかにヘビーデューティーなミッションかお分かりいただけるでしょう。
このミッション、それほど本体は丈夫で素晴らしいのですが、電子制御になった弊害で一つ弱点があります。ECUとミッションのバルブユニットをつなぐハーネスがやられることが多く、これがダメになると変速ができなくなったり、リンプホームモードに入ったりするのです。
ハーネスはコネクタがなぜかジャガー専用設計で、汎用品はそのままでは使えません。生産終了している上、部品があっても7万ほどする大変高価なものになっています。ハーネスの導通を調べて、部分的に交換するのが良いでしょう。
ちなみにオイルパン形状もジャガー専用設計なので、オイルパンやガスケットはアメ車用の部品が使えず、高価な部品を使用しなくてはなりません。
電子制御でロックアップ付きになったことで、かなり燃費の向上に寄与するようにはなりましたが、旧車となった今では難しいところです。

なお、同じV12に取り付けられているとはいえ、ボルトパターンが違うためにTH400と4L80Eをそのまま取り替えることはできません。
5.3Lに4L80Eを取り付けたいとなれば、エンジンを降ろしてボルト穴を新たに開ける必要が出てきます。そこまでやるならエンジンごと交換してパワーアップも考えたほうがいいでしょうね。



AJ6エンジンの登場とともにジャガーに使用されるようになったのがZF製のミッション、4HP22と4HP24です。
前者が機械制御、後者が電子制御ですが、基本は同じです。
このミッション、ジャガーについているものは非常に丈夫なのですが、実は他の車種においてはあまり評判が良くないようです。ジャガー用だけ内部部品の耐久性を高めているという噂ですが、実際、基本の4HP22の耐久トルクはたったの380Nmなので、3.6Lで325Nm、4.0Lで391Nmもトルクがあることを考えるとあながち嘘ではないのでしょう。
BMWでは750や850といったV12にこのミッションを組み合わせていますし、アーデンの4速のダブルシックスもこのミッションですが、ジャガーの選択を考えるとちょっと不安がある気はしますね。

というわけでいずれも案外本体のトラブルは少なく、ミッションOHをする羽目になったという話はほとんど聞いたことがありません。ZFはガラスのミッションなどと言われることもありますが、この4速ATに関しては全く当てはまらないと言ってしまって良いでしょう。
万が一本体が故障をしたら、中古部品と交換してもあまり心配はいりません。

マイナートラブルはやはりどうしてもあります。
4HP22の場合は、キックダウンケーブルの緩みで1-2速間に大きな変速ショックが現れるようになります。これはキックダウンケーブルの調整ですぐに直ります。
4HP24の場合は、エンジン側のECUと連携して変速を行っているため、エンジンマネージメントを司っているセンサー等に異常が出ると変なショックが出ることがあります。場合によってはECUのセットアップをしないと直らない場合もあるので、ここは少し機械式に比べて面倒です。



本当の意味でガラスのATなのが、1997年のX100(XKシリーズ)から採用されたZF製 5HP24 ですね。
もはや言うまでもなく、悪い意味で有名になってしまったこのミッション、何をどうやっても必ず壊れます。オイル交換の指定がなくなったことが問題のように言われていましたが、それはわずかに寿命を延ばすというだけで、やったところで結局変わりはありません。
内部の部品の強度に問題があるのです。
ひどいものでは何故かバルブボディが割れていたというようなものまでありました。
一度対策品を使ってオーバーホールされたものは壊れなくなりますが、OHですら怖ろしく高価なので、中古車を買う際には過去のATのサービス履歴に注意したほうが良いでしょう。

同時期にスーパーチャージャーモデルに採用されていたメルセデス製5速は逆にほとんど壊れません。
コネクタのオイルシールがダメになって必ずオイル漏れするという持病がありますが、これは大した値段の部品でもなく、対策品に交換すれば直りますので、大きな問題ではありません。



その後のモデルでは、ZF6速が採用されますが、その前に、Sタイプにはフォード製の5速ミッションが、Xタイプにはジャトコ製の同じく5速ミッションがそれぞれ採用されており、これらがやはり壊れると問題になりました。
ジャトコは、残念ながら日本製であるにもかかわらず評価は芳しくありません。



ZFの6速ミッションである6HP26は後期X100、中期以降のSタイプ、X350から導入されました。
割と故障は少ない方ですが、スーパーチャージャーモデルなどで荒く使われるとミッション載せ替えに至ってしまうことは少なからずあるようです。
また、オイルパンとフィルターが一体になっており、樹脂でできているため、これが経年劣化や飛び石などで割れ、オイル漏れに繋がることがあります。

一番鬱陶しいのは、コンピュータ制御もかなり複雑になっており、細かいことですぐにリンプホームモードに入ってしまうことです。
また、シフトスケジュールの変更等で細かな改善命令がメーカーから出されているため、アップデートが済んでいない個体だと変速ショックが出たりすることもあります。いずれもディーラーのコンピュータでセットアップしないと解決しないので、町工場で見るには厳しい車となってしまっています。



こうしてみていくと、やはりコストの問題がAt自体の耐久性にも大きく関係している気がします。
また電子制御のミッションは、確かに燃費向上に役立ちはしますが、信頼性という意味では、その制御が複雑になればなるほど逆に古くなったときの不安は大きくなっていくと言えます。
古き良き時代、という言葉はただの懐古主義でもなんでもなく、ジャガーに関して言えば真実なのかもしれません。







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